たろう氏のブログ

全てノンフィクションです

【蕎麦屋の姐さんのお話③】

・たろう氏のルーティン、それは月に1回程度設けられている在宅勤務の日の昼休みに例のあの蕎麦屋に足を運ぶことだ。

・無論、お目当ては美味しい蕎麦だけではなく。

・会いに行ける蕎麦屋の別嬪姐さんである。

・しかし、3回目の来店はたろう氏にとって不安でしかなかった。

・と言うのも、前回あまりにも親しげに接してくれた姐さんだったが、それはあくまで齢3つの可愛い息子を連れていたからのこと。たろう氏が1人で来ていてもこの前の様には声をかけてくれないのではなかろうか。

・実際にその様な対応の店員はよくいる。スーパーの店員然り、クリーニング屋のオバチャン然り。子どもがただ可愛いだけで、たろう氏1人の時は人が変わった様な塩対応だ。たろう氏があのいつも来る可愛い子どもの親だと気づいてすらいないのかもしれない。


・そんな不安を胸にそっと扉を開けると、「いらっしゃいませ!」と姐さんのいつもの明るい声が聞こえてきて少しほっとした。たろう氏が席に座ると姐さんはメニュー表を持ってくるなり、たろう氏にこう尋ねた。

・「今日はお子さん保育園ですか?」

・「!?...はい!保育園行ってます!」

・「(にこっ)お兄さん今日は身軽でいいですね」

・「(デレデレしながら)あはは...。」


・ちょっとしたやり取りだが、飛ぶほど嬉しかった。姐さんのこの対応はたろう氏のことをしっかり覚えてくれていて、常連客として認めてくれた証だと感じた。

・地元に居場所がない様に感じていたたろう氏は生まれて初めて自分の隠れ家ができた様な気持ちになっていた。

・美味しい蕎麦が食べられるだけじゃない。美しい姐さんに会えるだけじゃない。この店が与えてくれるものは生まれ故郷に対する郷土愛なのだ。

・この街に生まれて良かった。心からそう思わせてくれる銘店に巡り会えたことがとても幸せだ。


・その後もたろう氏はこの店に通い続けている。時には姐さんがお休みの日もあるが、それでもこの店はいつでもたろう氏に安らぎと癒しを与えてくれる。

・正にたろう氏の心と暮らしの「そば」にある店だ。


つづく