・しとしとと弱い雨の降る中、傘を差しながら今日もあの蕎麦屋に向かうたろう氏。
・「いらっしゃいませ!」姐さんのそのお声を聞けただけで、今日は雨の中来た甲斐があった。
・傘を畳みゆっくりメニュー表を眺めると、そこにはまだ注文したことのないメニューがあることにたろう氏は気がついた。
・「カレー南?なんだろこれ?」
・このメニューが気になったので、おそらくこれのことだろうと思い切って姐さんに注文をした。「カレー南、ばん?ください。」
・すると姐さんは「はい!カレー南蛮ですね!」と当たり前のように受け止めてくれた。この業界ではこれが一般的な表記なのだろうか。
・注文が入り、いつもの如くせっせと配膳の準備を始める姐さん。いつもの如くじっとり姐さんに見惚れるたろう氏。
・ここは調理時間が長ければ長いほど顧客満足度が上がる世にも珍しい店だ。
・やっとこさ出来た料理をお盆に乗せて運ぶ姐さん。ぽつんと呟いた「あっ!おしんこ乗せるの忘れてた!」というおっちょこちょいな独り言がとてつもなく可愛かった。
・「おしんこ」という和語がこの蕎麦屋の姐さん以上にしっくりくる女性はこの世にはまずいなかろう。姐さんの魔法の言葉がかかれば、おしんこは箸休めではなく主菜となる。
・そして、相も変わらずここの料理は美味い。「カレー南」という名のカレーうどんならぬカレー蕎麦を今回初めて食べたが、麺つゆの出汁が溶け込んだカレールーに蕎麦をしっかり浸せながら味わう極上の一品であった。
・しかしながら、欲張りなたろう氏はまだどこか物足りなさを感じてしまっていた。
・「最近姐さんとあまり話が出来てないなぁ...。」
・いやいや、それで当たり前である。ここは居酒屋スナックなどではない。食事を提供するだけのただの普通の蕎麦屋なのだ。
・「姐さんに話しかける勇気がない...。もっと姐さんとの会話のきっかけとなるネタがあればなぁ。」
・そう思いながら店を出ようとすると、
・「お兄さーん!傘忘れてる!」と姐さんに笑顔で引き留められ、「あっ!ありがとうございます(照)。」とたろう氏は逃げるように店を後にした。
・突然の不意打ちを喰らい、帰り道傘を差すたろう氏は姐さんのことで頭が一杯になったとさ。
・どんな蕎麦屋だよ
つづく