たろう氏のブログ

全てノンフィクションです

【やり直したい恋】

【やり直したい恋】

・恋愛を成就させるためには熱意やテクニック、お互いの相性だけでなく、プロセスやタイミングも非常に重要である。

・それらを心得、やり直したい恋というものがある。

 


・彼女は高校3年の時のクラスメイト「ちゃあ」。名前は「あさみ」というのだが、何故か彼女は「ちゃあ」というあだ名で親しまれていた。

・ちゃあは明るく元気なバスケ女子。クラスでも人気者のいわゆる陽キャラというやつだ。整った美人というよりは、爽やかなショートヘアととびきりの可愛い笑顔が印象的で、皆から愛されるいじられキャラでもあった。

・ちゃあを好きになったきっかけは校内の合唱コンクールだった。指揮者がなかなか決まらない中、見かねたクラスのボスキャラ女子が「決まんないから、ちゃあで良くね?ちゃあやんなよ!」と圧をかけたのを受け、「え〜わかったよ。やるよ。。」としぶしぶながらもちゃあは指揮者に名乗り出てくれた。

・ちゃあは初めて挑戦する指揮者に悪戦苦闘しながらもみんなの前に立ち頑張ってクラスを引っ張った。指揮のことで分からないことがあれば音楽の先生に度々相談をしに行った。精神的に病んでしまい、保健室から戻ってこなくなったこともあった。

・最初はちゃあのことを気に留めていないたろう氏であったが、クラスのために一生懸命頑張る姿やその温かい人間性に惹かれ次第に恋に落ちていった。内面から女性を好きになったのは初めてのことだった。

・6月の合唱コンクールの打ち上げにて、恋バナとなり、たろう氏は好きな子が同じクラス内にいることをみんなの前で大暴露した。たろう氏の大胆な発言に場が湧く中、「え〜誰だろ〜!?」と言ってちゃあが目をキラキラさせていたことは忘れもしない。「お前だよ!」とたろう氏は心の中で絶叫した。

・今考えるとつくづく自分は恥知らずな人間だと思うが、「先にフラグを立てておいた方が後に周囲の協力を得られやすくなるのではないか」とたろう氏なりに考えての大博打だった。恋愛弱者のたろう氏に恋愛のテクニックはないが、勇気だけはあったのだ。

・とはいえ、クラス内に好きな子がいると公表した手前、その好きな子から連絡先を聞くというミッションは想像以上に難易度が高く初手からして既に詰みかけていた。

 


・悩んだ挙句何も出来ないまま1学期が終わりを迎える頃、9月の文化祭でたろう氏のクラスは劇を披露することに決まった。そして、役割分担の結果たろう氏は運良くもちゃあと同じダンス班になった。

・全体練習とは別に、ダンス班だけで夏休みも個別に集まり練習をするとのことだったので、「班内で連絡を取り合うため」という申し分のない口実が出来、1学期の終業式になんとかちゃあのメールアドレスをゲットすることができた。

・当時はLINEなど存在しないメールの全盛期。メールアドレスの交換方法はガラケーによる赤外線通信が主流だったが、たろう氏のガラケーは機種が少し古く赤外線通信機能がついていなかった。たろう氏が「ごめん、おれの赤外線ないんだ」と言うと、ちゃあは「じゃあ、あたし打つよ!」と快く言って、たろう氏のガラケーを取りメールアドレスを入力してくれた。好きな子にガラケーを預けている間は時計の針が止まったのかというくらいドキドキした。死んでしまうから早く入力してくれと思う反面、このときめいた時間が一生終わらないでくれとも思った。

・簡単な操作で友達登録出来てしまう現在のLINEは便利なツールではあるが、この様な人間の操作が紡ぎ出す甘酸っぱい青春のドラマを体感出来ないことが非常に残念である。

・念願のちゃあのメールアドレスをゲットし有頂天のたろう氏であったが、肝心のメールのやりとりは下手くそそのものだった。向こうからすればただただ面倒くさい時間だったかもしれないが、それでも人の良いちゃあは大抵返信をくれた。

・夏休みの間、たろう氏は大好きな子とメールのやり取りが出来ているという事実に酔いしれてしまっていた。これだけでは2人の関係は何も進展していないという驚愕の事実には気がついていなかったのだ。

・今振り返れば、折角の高校生活最後の夏休みなのだから、友人と何人かで花火大会とかお祭りとかに誘ってみれば良かったと思う。当時のたろう氏の頭にその様な発想がなかったことが非常に悔やまれる。

・一方学校では、文化祭のダンスの練習でちゃあと一緒にいる機会が増えた。

・ダンスの中には男女ペアで手を繋いで踊るシーンもあり、ドギマギしながらもちゃあと何度か手を繋ぐことが出来た。ちゃあの手は小さくてすべすべしていて柔らかくて、そのままずっと握っていたかった。ちゃあがためらいもなくたろう氏と手を繋いでくれたことが嬉しい反面、顔が真っ赤になるくらい照れてしまったのを覚えている。青春である。

 


・ちゃあに最初に告白をしたのは文化祭の打ち上げの時だった。片田舎にある高校だったため、打ち上げは学校近くの土手でいつも行われていた。

・ボスキャラ女子が持ち込んだ缶チューハイをみんなでひっそりと飲み、場が温まった頃、たろう氏は草むらの茂みまでちゃあを連れ出し想いを告げた。

・何て言ったのか正確には覚えていないが、「好きです。付き合ってください」とストレートに言ったのだと思う。

・ちゃあは「好きな人いるから付き合えない」とたろう氏にバッサリ言い放ち1人草むらから離れていった。

 


・遠目とはいえ「クラスのみんなが見てる前で告白すれば振られることはない」という方にたろう氏は賭けていた。しかし、その読みは非常に甘かった。それはテレビの中だけの話だった。

・今思うと、賭けの勝負をしている時点でその告白は既に失敗している。孫子の兵法理論によれば、戦いを仕掛けるのは確実に勝てるという条件を満たした時だけにすべきなのであって、この事例に関して言えば、相手方との事前の関係構築こそが重要だったのである。この恋のやり直すべき最大の反省点はそこにある。

 


・大好きなちゃあに振られたたろう氏は魂が抜け落ち、打ち上げの翌日は生まれて初めて学校をサボった。

・たろう氏が高校生活で学校をサボったのは後にも先にもこの一度きりだ。ちゃあの顔を見たくなかったし、敢えてサボることでもうちゃあのことを諦めざるを得ない気持ちに切り替えられるだろうと考えたのだ。

・その日は隣町の広い公園で1日を過ごし、学校で食べるはずの弁当をベンチで1人空しく食べた。「死にたい」ブランコに長く揺られていると次第にそんな気持ちになっていった。

・失恋の痛みというのはこんなにも辛いものなのか。これが初めての失恋ではなかったが、今振り返ってもこの失恋が人生で1番辛かった様に思える。

・クラス内での失恋というものはあまりにも残酷だった。恋をしている時は幸せに浸れる時間が長い分、それが叶わなかった場合教室は地獄と化してしまう。

・他に好きな子が出来たり環境が変われば失恋の痛みは徐々に和らいでいくものだが、愛しのちゃあが毎日目の前にいる環境において、たろう氏がちゃあを諦めることはできなかった。もう一度ちゃあと手を繋ぎたかった。

・今となっては「他にもいい子はたくさんいるよ」などと自分を慰めてあげたいところだが、当時のたろう氏にとってはちゃあが全てだったのだ。

・最終的にちゃあには3回告白したが、結果はやはりダメだった。何回やってもダメなものはダメなのだ。プロセスからして間違えていることに早く気がつくべきだった。

・そもそも、高校3年と言えば大学受験勉強の重要な時期。たろう氏が勉強に励んでいた様にちゃあもまた勉強に励んでいた。ただでさえ時間が必要な時に好きでもない人と恋愛をしている暇などまずなかった。

・ちゃあと出逢うのがあと1、2年早ければまた違ったアプローチが出来たのかもしれない。

 


・藁にもすがりたいたろう氏は、ちゃあのことで予備校の担任の女の先生にまで恋愛相談していた。担任の先生は授業選択や受験校の相談などをするためにいたのだが、たろう氏にとっては貴重な恋愛相談の相手だった。

・「恋愛にうつつを抜かすよりも今は勉強に集中なさい」と一刀両断されるのかと思ったが、「男の子って意外と繊細なのよねぇ」などとボヤきながらも先生は結構真剣に話を聞いてくれた。最終的には「頑張って勉強していい大学に行っていい子を見つけなさい」という方向に上手く乗せられてしまったが。

・この先生のサポートもあり結果的にたろう氏は第一志望の大学に見事合格。大学に入れば好きな人ができ、ちゃあのことなどすぐに忘れられるはずだった。

・しかし、大学に入ってからもたろう氏はちゃあのことを1年近くも忘れられなかった。今思うと、その1年が非常にもったいなかったが、過去の人生を振り返ってもここまで好きになれる人はいなかったと思う。

 


・ちゃあと結ばれた世界線を今でも想像することがある。きっと毎日が楽しく笑顔に溢れる高校生活になったに違いない。しかし、その夢が叶うことはもう、ない。

・「過去に囚われるのは良くない。未来に目を向けるんだ。何故女性との関係が上手くいかないのかをもっと真剣に分析して改善した方がいいよ。」と若かりし頃の自分に強く言いたい。

・ついでに今の自分にも言いたい。「お前もな」