たろう氏のブログ

全てノンフィクションです

【無理ゲー開幕!】

・2009年4月9日桜もだいぶ散ってきたその日の夜、たろう氏が所属していた体育会ラクロス部ではお花見コンパが開催されていた。

・そのコンパは部活の新入生歓迎会という名目ながら他大学の女子ラクロス部を交えた謂わゆる合コンだった。

・多くの若い男女が集まる中、華の1女として人一倍の輝きを放つ女性がいた。

・彼女の名は「カナコ」。大学2年生だったたろう氏は新入生のカナコに一目惚れをした。

・カナコはthe小悪魔系といった容姿をしており、少し背伸びをしてオシャレを着飾る姿が初々しく可愛かった。たろう氏がこれまで好きになった女性とはタイプが違う感じだったが、それはたろう氏のストライクゾーンが改定された瞬間を意味した。また、年下の子に恋をしたのも初めてのことだった。

・お花見コンパは3日間行われたが、最初の2日間、たろう氏は係でもないのに先輩に裏方で奴隷の様にこき使われ、会を全く楽しむことが出来なかった。

・それ故に、やぶれかぶれの感情で迎えた最終日にカナコとの出逢いが待ち受けていたのは、恋愛の神様が与えてくれたご褒美なのだと心から思った。これまでの憂さを全て回収するだけのドラマがあった。

・その日のたろう氏は会心の一発ギャグで会場を沸かす等絶好調。カナコもたろう氏に好感を持ったように思えた。

・会も終わりを迎える頃、たろう氏はカナコと連絡先を交換することが出来た。また、酔った勢いに乗じて2人が仲良く握手したツーショット写真まで撮らせてもらった。

・「たろう氏にもついに春が来た」と部活の仲間たちは歓喜。高校3年の時に経験した失恋を未だに引きずっていたたろう氏であったが、ようやく報われるときが来たのだと誰しもが思った。

・あまりにも幸せな春だった。花見の時のツーショット写真を仲間の誰かが加工してハートで囲ったものをたろう氏は携帯の待ち受け画像にしていた。そして、携帯を開くたびにニヤニヤしてしまった。

・「早くデート行けよな!おれら全員で見に行ってやるから!」と言う仲間たちからのイジりに憤るふりをしながらも内心はイジられるのが嬉しくて仕方がなかった。

 


・4月下旬、たろう氏の人生初デートは新宿アルタ前集合で始まった。

・今振り返ると、びっくりするくらい計画性のないデートだった。事前に考える時間はいくらでもあったのだが。

・とりあえず、三丁目の高級デパートをぷらぷら歩き、「高いねぇ」みたいなことを2人でボヤいた気がする。あの時おれは何がしたかったんだろう。

・夕食をどうするかも全く決めていなかった。ぐだぐだしているうちにカナコの方から「居酒屋でも入らない?」と言ってくれてとても助かった。

・たまたま目の前に居酒屋「東方見聞録」があったのでそこに入ることにした。何を話したのか覚えてはいないが、かのマルコ・ポーロもがっかりするくらいたろう氏に会話の引き出しはなかった。

・結構な早い時間で初めてのデートは終わってしまった。改めて字面にしてみると全く楽しめる要素のないクソみたいなデートだが、たろう氏はドキドキで終始胸がいっぱいだった。一緒にいられることが幸せでカナコを楽しませたいと思えるだけの心の余裕はまだなかったのだ。

・そして残念なことに、その日を境にカナコからのメールの返信は明らかに遅くなり、2日後とか3日後とかが当たり前になった。

・返信が来ない間は死んだ様に落ち込み、来たら歓喜の渦に包まれる。この症状は躁うつ患者のそれの様だった。

・この時点で脈はかなり薄かったのだが、カナコからの返信が来る限りたろう氏は望みを持ち続けた。

 


・5月中旬、2回目のデートに漕ぎ着けることが出来た。前回の反省を踏まえ、悩んだ上でのデートは渋谷での映画。観たのは「名探偵コナン〜漆黒のチェイサー〜」だった。

・いかにもモテなそうな男の映画チョイスだったが、ことのほか映画自体は面白く、クライマックスで主要キャラが銃殺されるシーンになると、カナコは声を出して驚くほど映画にのめり込んでいた。隣に座っていたたろう氏はむしろカナコの純粋さに驚かされた。さすがは仕事人コナンである。

・映画を見た後はいい感じの雰囲気になった気がした。ここで何をするかが重要だったが、たろう氏はゲーセンで遊ぶという選択をした。

・その選択が正しかったのかどうかはわからないが、たろう氏が日頃から精進していたUFOキャッチャーでカナコのリクエストしたぬいぐるみを数回で取ってあげることが出来た。

・そして、UFOキャッチャーとの死闘を制し、意気揚々のたろう氏は帰路の道玄坂にて少しだけ冒険してみた。

・たろう氏の右手がそっとカナコの左手を握りしめたのである。

・「...どうしたの急に?」とカナコが少し照れながら言ったのを受け、心臓が飛び出るくらいドキドキした。

・好きな子と手を繋ぐという達成感と周りに見られているという気恥ずかしさが相まって、たろう氏はこの上ないトキメキを感じていた。このままカナコと付き合ってずっと一緒に歩いていたいと思った。

・前回と比べれば2回目のデートは大成功だった。帰りに手を繋いだときカナコは何を思ったのだろう。嫌がる素振りはなくたろう氏としては脈ありだと思った。

 


・しかし、その後もカナコからのメールの返信は遅いままだった。向こうからしてみれば、既にしつこいだけの存在だったのだろうか。

・精神が崩壊しかけたたろう氏であったが、それでもなんとか漕ぎ着けた3回目のデートは六本木に行った。

・デート当日カナコはサイフを家に忘れてくるという暴挙に出た。たろう氏は「お金はおれが持つから気にしなくていいよ」などとカッコつけた気になっていたが、この時点でカナコとの関係が終了していることに気がつくべきだった。

・また、その日カナコは大学内での活動があったためスーツ姿で来た。その姿は初々しくとても可愛らしかったが、奥手のたろう氏は「スーツ姿可愛いね」とか「似合ってるね」といった褒め言葉の一言も掛けてあげることが出来なかった。本当にその時の自分をぶん殴ってやりたい。

・そして、この日のデートはまたしても映画。さらに選んだ映画が「真夏のオリオン」というまさかのミスチョイスだった。

・真夏のオリオンは太平洋戦争における海軍を題材にした作品であるが、たろう氏が崇拝するCHEMISTRYの堂珍氏が俳優として出ているから観てみたいという個人的な理由でのチョイスだった。

・自分の都合に相手を付き合わせるなどというのは初期段階のデートにおいて御法度である。それが明るい内容ならまだしも戦争モノの映画など論外だ。ただ1つ言えるのは、たろう氏は失敗から1つずつ物事を学んでいくタイプだったということだけだ。

・映画の後はやはりしっとりとした空気感になってしまった。なお、たろう氏が見たかった堂珍氏は映画開始後わずか30分ほどで戦死した。

・既に色々失敗してる感のあるデートだが、たろう氏はこの3回目のデートでカナコに告白することを心に決めていた。

・「告白するなら3回目のデートで」というのは恋愛における定石とされる考え方の1つである。連絡も全然来ないし、サイフも持ってこない女性であってもたろう氏はこの定石を信じた。

・告白は森ビルの展望台で外の良い景色を眺めながら行った。その行い自体は悪くなかったが、問題はそれが昼の3時だったということだ。

・何で夜景を見ながらの告白にしなかったのだろう。当時の自分の至らなさには目に余るものがあるが、恋愛初心者というのは得てしてそんなものなのかもしれない。

・「彼女になってほしい」とたろう氏が告白すると、「...ちょっと考えてもいい?」とカナコは勿体ぶった。

・行けたのか!?とたろう氏は大いに期待をしたが、待っていたのは「ごめん付き合えない」という返事だった。告白された側もストレートに無理とはなかなか言いづらかったのだろうなぁと今ならカナコの心中を慮ることが出来る。

・結局振られてしまったたろう氏であるが、「今回は上手くいくだろう」というより「今回ばかりは上手くいってほしい」という切なる願いがあった。

・しかし、恋愛の神様は一切の空気を読まない。辛い過去があろうが、どれだけ強い想いを持っていようが、相手の心を満たせない者は容赦なく切り捨てられる。

・ダメだった要因はなんだったのだろうか。たろう氏が恋愛初心者でカナコを上手くエスコート出来なかったことは勿論だが、技術的な部分を差し引いたとして、たろう氏の人となりがカナコに伝わっていなかったことが1番の要因だった様に思う。カナコにとってたろう氏はお金を多くもってくれるただの「いい人」に過ぎなかったのだ。

 


・カナコとの出逢いを通じて恋愛の厳しさを思い知ったたろう氏は、自身の恋愛に対する課題を整理し日々改善を試みた。

・しかし、課題解決は容易ではなかった。カナコに振られた後は2回目のデートに漕ぎ着く人さえ現れなかったのである。

・恋活パーティーや相席居酒屋に出向くことも多々あった。顔も思い出せないくらい色々な女性と出逢ったが、何も成果はなかった。

・「恋愛は無理ゲー」その様な表現もあるが、まさにその通りだと思えた。

・正直自分のどこがイケてないのかがわからない。女友達もいるし、「優しいしモテそうだよね」と女性からお世辞を言われることもあった。どうすればたろう氏に彼女が出来るのだろうか。悩んでも一向に答えは出ない。

・そんなたろう氏の無理ゲーは、ある女性との出逢いをもって訳のわからないまま終焉を迎えた。