たろう氏のブログ

全てノンフィクションです

【①コニタン物語(上巻)〜運命の悪戯〜】

・2020年4月。たろう氏の職場に1人の新入職員が配属された。

・ぱっちりとしたつぶらな瞳に凛々しいショートのヘアスタイル。マスクで覆われたそのご尊顔はあまりにも可愛らしかった。

・着慣れないスーツを身に纏う姿はまだあどけなく、長身ではないが華奢でスタイルが良い。ついでにパンツスタイルがその小さなお尻をとても綺麗に見せていた。

・電話を取る時はタジタジ。話しかけられるとオドオド。右も左もわからない新入職員の姿はただただ可愛らしく見守ってやりたくなるものだ。

・それがコニタンの第一印象だった。

・コニタンはたろう氏とは違う係であり、仕事上で会話をすることはほとんどなかった。

・たろう氏が席を離れると隣の島にいるコニタンの姿が目に入り、いつでも癒しを与えてくれる。たろう氏にとってコニタンはただの仕事中の癒しの存在だった。

・真面目で一生懸命働くコニタンの成長を陰ながら応援する。たろう氏はそれだけで満足だった。それ以上を望むつもりもなかった。

 


・時は流れ、気がつけば3年が経過していた。気弱な新入職員だったコニタンも今や4年目の頼れる若手職員へと成長していた。

・相変わらずたろう氏が仕事でコニタンと関われる機会は少なかったが、夏に運命の悪戯が起こる。

・たろう氏の職場では毎年7月から8月にかけて伊豆下田への出張があり、多くの職員が順々に出張に駆り出されるのだが、これにたろう氏とコニタンが1日重なる日程でたまたまセッティングされたのだった。

・たろう氏はこれを知り嬉しかった。と言うよりもむしろ不安になった。

・前述の通り、コニタンはたろう氏にとって仕事中の癒しの存在である。しかし、正直に自白すると、コニタンはたろう氏の1人の夜を慰める存在でもあったのだった。

・出張とは言え、こんなゲスな男が清廉潔白なコニタンと昼夜を共にしていいのか。社会的に糾弾されるような事態にはならないだろうか。率直にたろう氏大丈夫だろうか。

・そんな情け無い不安を抱えながらも、たろう氏はある決意を胸に、踊り子号に揺られながら伊豆下田に向かうのだった。

・「出張の間はコニタンを自分のお客様だと思って大切に接しよう」そうすればやましい気持ちも少しは晴れるだろう。そう願った。

 


・下田は温暖な気候ながらも最高気温は32度程度と都内よりも遥かに涼しく、豊かな自然と時折吹く海風の心地良さが開放的な気持ちにさせてくれた。これから始まるコニタンと過ごす時間を彩るのには申し分なかった。

・スケジュールの都合上、たろう氏が出張先に先に入り、2日後にコニタンが到着した。なお、コニタンはノーマスク姿での登場だった。

・たろう氏の職場は窓口業務があり、客の目もあることから、新型コロナが5類になってからもほとんどの人は普段の業務ではマスクを着用している。コニタンに至っては入社してからこの出張に至るまで人前でマスクを外したことはほぼなかったと思う。しかし、コニタンもまた開放的な気持ちになったのか出張中はずっとノーマスクだった。

・食事中にちらっとしか見られなかったコニタンのご尊顔。これがコニタンの本当の姿なのだと思うととても感慨深かった。

・つんとした美しい鼻にあひるの様に愛らしい口元。マスク越しに想像した通り、コニタンは綺麗な素顔をしていた。

・しかし同時に、コニタンは服装も含めてどこか雰囲気が地味であることに気がついた。

・超可愛いんだけどなんか地味。その絶妙なアンバランスさがたろう氏にとって魅力的に映り、いちご100パーセント(集英社)の眼鏡っ子東城を彷彿とさせた。

・「可愛い」出張中に何度この言葉が頭に浮かんできたことだろうか。

・買い出しの業務があり、コニタンは1人でお使いに行った。今出張先にはたろう氏がただ1人。そんなたろう氏に試練が訪れた。

・ふとコニタンのバッグが目に入った。〜あのバッグの中にはコニタンの大事な衣類が入っている。。周りには誰もいない。今なら。。。〜 1人の時間はたろう氏とゲスたろう氏の真っ向勝負が繰り広げられていた。

・しかし、「コニタンを悲しませることは絶対にあってはならない!さらに今は勤務中じゃないか!!」となんとか目を覚ました正義マンたろう氏はゲスたろう氏との死闘を制し、出張先での業務に集中するのであった。

・夕刻になり、たろう氏はコニタンの帰りが遅いことが気になり始めた。通常1時間もあれば帰って来れるお使いなのだが、もう2時間を裕に経過している。。

・外は熱中症警戒アラートが出るほどの暑さ。まさか、コニタン道に迷ってどっかで倒れているんじゃ??

・たろう氏はそわそわし始めた。〜たろう落ち着け。コニタンの緊急連絡先は課内の連絡網に書いてある。しかし、心配だからって無闇に電話なんてしたらキモがられるのがオチだ。キモい先輩とは思われたくないだろ。もう少しだけ待つんだ。あと10分しても姿が見えなければその時にまた考えよう。〜

・などとたろう氏がそわそわしているうちにコニタンはぐったりとして帰ってきた。

・「遅くなりました。目当ての商品が見つからずお店を転々としていました。」そう言うコニタンは真っ白なブラウスを自らの汗でびっしょりと濡らしていた。

・「!?ェエッロォ!」普段のたろう氏及びゲスたろう氏なら確実に今のコニタンの姿を見て生唾を呑み干すシーンだった。しかし、この時のたろう氏は違うことを想った。このびしょ濡れコニタンを目の当たりにしたとき、遊び疲れて門限を過ぎやっとのことで家に帰ってきた我が子を優しく迎え入れる母親の様な慈しみの感情が芽生えたのだった。そして、大事な後輩が事故に遭わなくて良かったと安堵した。

・「暑い中ほんとにありがとね。疲れてるだろうから少し休んでてね。」これはたろう氏の心の底から出てきた言葉だった。それ以降、ゲスたろう氏の出る幕はもうなかった。

・頑張る後輩の姿というものは先輩の腐った心をも清らかにする。コニタンと一緒に仕事を出来たことに感謝だ。

・夕食の時間になった。出張先での食事は毎食委託業者の人達と10人程度でワイワイ食べるのだが、何故かこの日に限っては委託業者は夕食を外で食べるとのこと。結果的にたろう氏とコニタン2人だけの夕食となった。委託業者よ!何という粋な計らいなんだ。

・とは言っても今日までほとんど会話をしたことがないコニタンと2人っきりで間がもつだろうか。たろう氏は不安だった。たろう氏はただでさえ人と話すのが苦手な上に、中途採用のたろう氏と大卒4年目のコニタンの間には8つもの年齢差があった。何を話せば良いのだろう。

・しかし、その不安は杞憂に終わった。コニタンといると何故か会話のネタが次々と浮かんでくるのだ。不思議な感覚だった。

・特別面白い話をしている訳でもないのだが、どんな話をしてもコニタンはうんうんと話を傾聴し、くすくすと可愛らしく微笑んでくれた。

・またコニタンの方からも色々と質問してくれた。「旅行がお好きなんですね。今までどこに行きましたか?」「1番のおすすめはどこですか?」「お子さんとはいつも何をして遊ぶんですか」などなど。

・文字に起こすと実に凡庸な会話をしていたのだと気がつくが、その会話の1つ1つがこの上なく楽しかった。

・コニタンの明るく可愛らしい受け答えは、たろう氏の平凡な思い出達を1つ残らずかけがえのない宝物に昇華させてくれた。こんなにも聞き上手な女性には生まれて初めてお目にかかった。今日が生まれてきて1番楽しい日だと思った。

・夕食のカレーがいつまで経っても食べ終わらない。そのくらい2人の会話は続いていた。

・入浴後コニタンは白いTシャツに短パンジャージというラフなスタイルで再登場した。さらに、すっぴん眼鏡姿を惜しげもなく披露し、持ち前のその地味さがより一層際立った。また、ぱっちりお目目が少ししょぼしょぼしてる感じがたまらなかった。そして、「この子、まさか『生娘』なんじゃね??」と本気で思わさせられるほどの透明感だった。(実際の真偽は不明)

・まるで家の中にいる無防備な女子高生の生活に密着させて頂いているかの様だ。てか、この出張何という役得!

・しかし、この時のたろう氏はコニタンの見た目がどうこうよりも、とにかくおしゃべりが楽しかった。

・おしゃべりだけでなく、仕事も2人で巧くこなし、我らこそ最高の先輩後輩の関係であると感じた。

・誤解のない様に申し添えると、たろう氏は人一倍仕事に熱心であり、仕事に熱中しているからこそコニタンとの会話も弾んでいたのだと思うことにしたい。

・21時には仕事が終わったので執務室内でコニタンとサシ飲みをした。ちなみに、コニタンとサシ飲みを出来るくらい仲良くなれるかというのがこの出張におけるたろう氏の裏ミッションだった。

・たろう氏はこの裏ミッションを見事達成。むしろ、ここまでコニタンに愛着が湧くとは正直思いもしなかった。

・サシ飲みはこれまで以上に会話が盛り上がった。外のゲリラ豪雨が全く気にならないくらいたろう氏はコニタンとの会話にのめり込んでおり、気がつけば時計の針は深夜1時を裕に回っていた。

・翌朝も勢いそのままに、おはようの挨拶をするや、たろう氏は持参し冷蔵庫で冷やしておいた缶コーヒーをここぞとばかりにコニタンに振る舞ってあげた。

・静寂でどこか眠たげな早朝。テレビを見ながら2人で缶コーヒーを飲み干す時間は風情があり何とも言えない心地良さがあった。

・何となしに外に出て見ると、昨夜の豪雨が通り過ぎた後の晴空にはとても綺麗な虹がかかっていた。

・「見て!虹が出てるよ!」たろう氏は執務室に戻るや考えるより先にコニタンを探し声を掛けていた。

・「え...?」コニタンを連れて再び外に出ると、ついさっきまであった綺麗な虹は姿を消していた。あれは夏空の悪戯だったのだろうか。2人はしばらく無言で佇んだ。

・虹とはとても儚い産物であると知った。まるでたろう氏のこれからを占うかの様であった。

・あと数時間で楽しかったこの出張も終了。たろう氏は残された時間を余すことなくコニタンへの業務引き継ぎに費やした。

・「また機会があれば一緒に仕事しようね!」そうコニタンに言い残し、たろう氏は出張先を後にした。

・たろう氏はこの出張に過去3度来ているが、「帰りたくない」などと心の底から感じたことは1度もなかった。二の足を踏みながらも、たろう氏は海岸を眺めながらとぼとぼと歩き始めた。

・コニタンはほんとに可愛い「後輩」だったな。同じ職場の人間と仲良くなれたことがたろう氏は嬉しかった。出張が終わった開放感も相俟ってたろう氏はこの上なく爽快な気持ちに浸っていた。

・たろう氏にとって、出張の醍醐味は出張が終わった後のほんのひと時の現地観光にあった。ここからがたろう氏にとっての本番である。今回はロープウェイで山に登ることにした。

・山頂から見下ろす港町の景色は最高だった。出張の疲れが癒されるとともにたろう氏はあることを想った。「あぁ、この景色をコニタンに見せてあげられたらなぁ...。」すると突然たろう氏の心に鋭い矢の様な何かが突き刺さった。

・「おや?この胸の痛みは一体...?」


つづく